BRAIN and NERVE-神経研究の進歩 70巻6号 (2018年6月)

特集 芸術を生み出す脳

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特集の意図

創造性を生み出す人間の脳には,どんな秘密があるのだろうか。天才の能力は,器質的な原因によって説明できるのだろうか。本特集では,芸術に典型的な創造性が,絵画や音楽はもちろん,将棋や学問,そして言語においても重要な役割を持つことを踏まえて,最新の知見を詳しく解説する。

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はじめに

河村 本日は「創造性と脳」をテーマに,酒井先生と私で相談をして,塚田先生に是非お話を伺いたいということでお招きしました。

 塚田先生は,工学部のご出身の脳研究者ですが,画家としても高名ですし,ダンスの名手でもあり,音楽にも造詣が深い。最近では『芸術脳の科学』(講談社ブルーバックス)というご著書があります。酒井先生は,まず物理学を学んでから生理学に進み,機能画像研究を脳研究の中にいち早く取り入れて,特に言語の研究を発展させてこられました。そして私は,神経学で大脳病変の最も古典的な手法である症候学を中心に脳研究を行ってきました。

 このような3人で,「創造性とは何か」という問題を中心に議論していきたいと思います。

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アインシュタインの脳のユニークさとしては,左頭頂小葉のニューロン/グリア比が高い,9野が薄くニューロン密度が高い,縁上回が拡張している,脳回構成が複雑である,脳梁が厚い,などが挙げられており,それがアインシュタインのたぐい稀な知性を生んだとされているが,その妥当性を脳の個体差や近年の脳に関する知識の面から検討し,妥当とは言えないと結論された。

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脳機能が「おしくらまんじゅう」して生まれる創造性について述べた。獲得性サヴァン症候群の症状発現について,私たちの「おしくらまんじゅう」仮説を紹介した。また,「癒し」の脳内機構,ノスタルジーのしくみについても触れた。

将棋棋士の直観と脳 田中 啓治
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直観とは,普通の人には困難な問題を短時間にほとんど無意識に解くエキスパートの能力のことである。筆者らの研究グループは将棋のプロ棋士またはアマチュア高段者の脳活動を測定し,次の具体手の直観的決定には大脳基底核が,攻めるか守るかの戦略の直観的決定には帯状皮質が重要な働きをすることを見出した。長い訓練を経てエキスパートになると,普通の人では原始的な行動で働くこれらの進化的に古い脳部位が,高度に認知的な問題解決に使われるようになる。

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音楽演奏は高度な認知機能のもとに知覚と運動機能の精密な制御と統合を必要とする行為である。近時,脳の構造や機能の非侵襲的測定手法の開発と発展に伴い,生後のあらゆる時期において,音楽演奏経験が多くの脳領域の構造と機能変化を促す事実が明らかとなりつつある。脳の可塑的変化を解き明かすための重要な生体モデルの1つたり得る音楽演奏習得訓練の継続や結果が脳に与える短期的,長期的影響の研究成果について概説する。

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幼少の頃に身に付けた言葉は,多言語でも自在に使いこなすことができる。本論では,その能力がサヴァン症候群では大人になっても保たれている可能性を指摘して,数十カ国語を話したエミール・クレブスについて焦点を当てながら,多言語脳について議論する。また,第二言語習得に関する脳研究から,文法中枢の左右差や,習熟度による脳の活動変化を紹介する。多言語の脳研究は,芸術における創造性の解明に役立つと考えられる。

総説

クライオ電子顕微鏡法 宮澤 淳夫
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クライオ電子顕微鏡法とは,生体試料を急速凍結して固定する手法,凍結試料をクライオ電子顕微鏡で観察する手法,撮影画像から立体構造を解析する手法全般を意味する。立体構造解析手法としては,膜蛋白質の二次元結晶またはチューブ状結晶を観察する電子線結晶構造解析,精製した蛋白質および生体分子複合体を観察する単粒子解析,切片の連続傾斜シリーズを観察する電子線トモグラフィーの3種がある。

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片側大脳半球脳梗塞52症例を,認知症の既往歴と脳卒中発症後の3D-SSP(three-dimensional stereotactic surface projection)脳血流低下画像に基づいて,脳卒中発症前の認知機能障害群と非認知機能障害群に分類し,脳梗塞リハビリテーションの転帰を比較検討した。退院時総FIM(functional independence measure)には年齢・NIHSS(National Institute of Health Stroke Scale)・MMSE(Mini-Mental State Examination)の3因子が有意に影響した(R2=0.756)。退院時の認知ならびに運動FIMは認知機能障害群で有意に低値を示した。また,脳血流低下画像は,NIHSSが軽症の場合はMMSEと関連性が認められ(P<0.05),脳卒中発症前の認知機能障害の評価における有用性が示唆された。

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 私にとっては2回目となるNeuroscience 2017に参加してきた。今回はワシントンD.C.で開催され約80カ国から約30,000人が参加した。13,552の抄録数,902のセッション,534の企業を含めた展示といつもながら大規模な学会であると痛感する(写真1)。これまで私は長く神経生理,脳マッピングの研究に従事しながら,なぜかこの学会に足を向ける気がしなかった。なぜなら,5日間の学会で抄録本は1日1冊,合計5冊の規模,領域が広すぎてみきれない博士課程の学生やポスドクの発表が多く,なかなかキーパーソンに会えない,というこれまでの参加者の感想を聞いて,足が遠のいていたからだ。

 しかし,前回初めてサンディエゴで開催されたNeuroscience 2016に参加してから,考えが変わった。これほど一度に世界の動向をみてとれる神経科学会はないのではないか,と思ったのである。ラット,マウス,サルを対象とする研究は目に触れることはあっても,これまで昆虫や鳥類の研究をみることはあまりなかった。その幅広い対象,テーマ,さまざまな疾患における研究,その情報量の多さに最初は口から泡が出そうになる。しかし逆に自分のテーマと興味がわかっていれば,さまざまな対象から,手法,考え方まで情報を得ることができる。

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目次

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 今回取り上げる論文も面白い趣向を持っています。論文タイトルは「不全型多発性硬化症あるいはバビンスキー小脳症候群」1)です。写真に写る患者を,当初は不全型多発性硬化症と診断していましたが,5年後に改めて再検討し,バビンスキー小脳症候群ではないかと報告しています。

 まずは,この2つの疾患が何なのかをみていきたいと思います。前者はシャルコー(Jean-Martin Charcot;1825-1893)とジャクー(Sigismond Jaccoud;1830-1913)が1885年に記載した仮説的な疾患概念であることが書かれています。われわれはジャクーの論文をみつけることができませんでしたが,今回の論文にはジャクーの症例の記載が引用されています。以下に示します。

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次号予告

あとがき 酒井 邦嘉
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 最近になってヴィオラを習い始めた。きっかけは2つある。1つは,なじみのヴァイオリン工房で弾かせてもらったヴィオラの響きが素晴らしかったことだ。それまで私が抱いていたヴィオラの音のイメージは,暗く沈んだ鼻声のようなものだった。そもそもヴィオラはヴァイオリンより一回り大きいだけだから,チェロのように堂々と鳴ることは期待できない。ところが,そこで手にしたヴィオラは明るく朗々と響き渡り,まさに目から鱗が落ちる思いだった。

 2つ目は,チェロの曲をヴィオラで弾けることに気づいたことだ。バッハの無伴奏チェロ組曲は,1オクターブ上げて(ドから1つ上のド),調を変えずに弾ける上(ただし5弦用の第6番を除く),原曲の雰囲気も損なわれない。もちろん,ヴィオラがヴァイオリンより5度低く(例えばソからドへ)調弦されることは知っていたが,チェロよりちょうど1オクターブ上に調弦されるということは意識していなかった。面白いことに,音程の知覚では,オクターブの差はあまり問題にならない。実際,無伴奏チェロ組曲をヴィオラで録音したCD(例えばRowland-Jonesの演奏)を聴いてみると,違和感がないばかりか,清々しく軽やかで優美な響きに魅了されるのである。

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基本情報

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩
70巻6号 (2018年6月)
電子版ISSN:1344-8129 印刷版ISSN:1881-6096 医学書院

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