精神医学 60巻6号 (2018年6月)

特集 医療・医学の課題としての身体合併症

特集にあたって 八田 耕太郎
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 近年の「精神疾患」の著しい増加に伴い,厚生労働省は2013(平成25)年度の第5次医療計画から4疾病に精神疾患を加え,「5疾病5事業」として重点化した。しかし精神疾患・身体疾患併存あるいは身体疾患起因の精神症状としての身体合併症の医療問題は歴史をはるかに遡る。東京都は1981年から,精神科病院入院中の患者を対象に精神科患者身体合併症医療事業を開始した。治療への協力性の問題が生じ得る一部疾患への心配という一般医療側の不安が根強かった時代における現実的施策であったと言える。時を経て,精神疾患は一般化され,卒前・卒後教育の成果として若手医療者の姿勢は好ましい方向に変化している。

 このような情勢において,身体合併症医療はどのような形になっていくべきか。長年の懸案である病識欠如・現実検討能力障害ゆえの身体治療拒否に対する合意形成はどうすべきか。さらに,各種疾患と精神疾患との関連を示唆する研究成果が疫学的にも生理学的にも蓄積されつつある現在,5疾病5事業の各領域との協働はいかにすべきか。

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はじめに

 精神疾患患者の身体合併症は,長く精神科医療における重要な課題であったが,一般の医療者にとってはそれほど大きな問題ではなかったように思う。しかし,精神疾患に対する社会のかかわり方が変化し,医療計画に5疾病目として取り上げられ,精神科身体合併症は今や医療全体が取り組むべき課題となった。そのような状況にあって,精神科医療に寄せられる期待は大きいが,我々はどこまでそれらに応えることができているのであろうか。本稿では,地域における身体合併症医療の課題について振り返り,その打開例としての新たな活動を概観し,東京都での我々の体験を示して,現況の課題と今後の方向性について考えてみたい。

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はじめに

 表題の内容について論じる前にまず整理しておきたいのは,我々が患者に対し医師として振舞う際,正しく振舞うために,行動の指針として何に拠っているかということである。ほとんどの場合,我々はそれをことさらに意識することなく,半ば習慣的に行動の方針を決めていることが多い。したがって,ほとんどの場合,行動の根拠は何かという面倒な思考をめぐらさなくとも,行動を滞らせることなく正しい行動を選び取っている。

 医師の行動の第一の根拠となるのは,言うまでもなく医学的エビデンスである。ここで言う医学的エビデンスとは,エビデンスレベルの高い科学的事実のみならず,個人の経験に基づく知見なども含めた広義の意味を指すと考えていただきたい。このような医学的エビデンスを用いることにより,我々医師は,患者の治療方針を決定する際に,ほとんどの場合患者にとって最善の方針は何かを「知っている」と言ってよい。そのような知識を基に,患者にとって最善の治療方針を提案し,医学的エビデンスに基づいた提案を行う。患者にとって悪い結果をもたらす可能性が一定以上あるものは言うに及ばず,ほとんどリスクのない治療内容であっても,治療方針に関して説明を行い,同意を求めるというインフォームドコンセントの手続きを踏むことになる。ただし,インフォームドコンセントが本質的に必要になるのは,治療における選択肢が複数あり,医学的エビデンスに拠って検討してもおのおののリスクが拮抗しているため選択肢を絞ることができない場合である。そのような際,治療方針の選択をするにあたって,患者の価値観や人生観などを加味した上で,それらを選択決定の材料とすることがインフォームドコンセントの意義となる。そうではなく,治療方針の選択肢が一つしかない場合には,インフォームドコンセントは形式的なものにならざるを得ない。特に,その治療方針がほとんどリスクを伴わず,高い確率で良い結果をもたらすことが医学的エビデンスにより示されている場合には,医師は説明にあたって同意を得られることを当然と考えており,万が一同意が得られないようなことがあれば,困惑して立往生するしかなくなってしまう。患者の同意能力を検討し,正しい選択をするよう支援する努力をする必要はあるが,そのような努力を経ても,同意が得られない症例は数多い。このようなときにはじめて登場するのが,医学的エビデンスに拠らない医師の行動指針であり,それは大きく分けて二つある。すなわち,法と倫理である。

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はじめに

 精神疾患は2013年にがん,脳卒中,心筋梗塞,糖尿病と並んで,厚生労働省が定める5疾病に含まれた。精神疾患によって損なわれる健康は,精神面だけではなく,身体面にも及ぶ。精神疾患は健康的な生活を害する身体疾患の危険因子でもあるからだ。疾病によって失われる命と疾病により損なわれる健康・生活機能を統合したDALY(disability-adjusted life year)という指標がある。先進国においての身体疾患,精神疾患併せて333疾患のDALYを調べた研究では,うつ病が10位,自傷が13位,薬物使用障害が15位,不安障害が18位,アルコール使用障害が28位と上位10%に5つの精神疾患およびそれに関連する行動が含まれていた14)。つまり,精神疾患は日本人の健康的な生活を大きく損なっている。また精神疾患を持つ患者は,身体疾患の併存が多いのみならず,喫煙や過量飲酒など健康に好ましくない生活習慣を持つ者も多く,疾患予後にも影響を及ぼす。

 本稿では,重度精神疾患(severe mental illness:SMI)に含まれる統合失調症,うつ病,双極性障害の各種身体疾患の罹患リスク,生活習慣,予後についての疫学的知見を紹介する。

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はじめに

 「産後うつ」への早期介入を目的に,厚生労働省は2017年度より,産婦健康診査(以下,健診)を受ける際の費用の助成を開始した。健診による精神状態の把握状況は,現時点では各地域によって異なるものの,国の後押しもあり,昨今の産科医療機関における周産期のメンタルヘルスに対する関心は著しい高まりをみせている。このように,わが国における周産期メンタルヘルスの重要性の指摘や実際の活動は,産科側を中心に展開されてきており,その受け皿となる精神科側は十分とは言えない状況である。

 妊娠中や産後に生じる急性の精神病状態や精神運動興奮などの,いわゆる精神科救急としての対応を迫られる病態まで発展した場合は,現行の精神科救急システムで対応可能な場合が少なくないが,精神的な不調に対する予防介入や多職種による包括的な支援マネジメントはまさにこれからといったところである。

 本稿では,診療報酬改定やガイドラインなどをはじめとしたわが国の周産期メンタルヘルスを取り巻く状況を踏まえ,東京医科歯科大学医学部附属病院(以下,当院)における周産期医療にかかわる多職種との協働,そして,この分野の今後の課題について論じてみる。

腎臓病領域との協働 西村 勝治
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はじめに

 腎臓病領域はがん領域と並んで古くからコンサルテーション・リエゾン精神医学の主要領域の一つであり,それぞれサイコネフロロジー(psycho-nephrology),サイコオンコロジー(psycho-oncology)と呼ばれてきたが,今なお取り組むべき課題が多い。

 本特集の「身体合併症」という表現はあくまで精神医療サイドからみた概念であり,精神疾患がプライマリーである患者に合併する腎臓病を意味している。

 一方,腎臓病の医療サイドに視点を変えれば,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者に併存する精神疾患やメンタルヘルスの問題の多くが見逃されているか,適切な精神医療につながっていない15,31)。これらはCKD患者のQOLを低下させ,予後をも悪化させることが指摘されている8,9,29)。さらには医療スタッフのメンタルヘルスにも関連し,透析の医療現場ではスタッフの燃え尽き症候群が問題となっている。地域で透析医療を担っている施設において,いまなお連携できる精神科医がいない施設が少なくない。このような現状をふまえ,本稿では血液透析に焦点を当てて,CKD患者における精神医学的課題を俯瞰し,精神医療と腎臓病領域との協働可能性について述べる。

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はじめに

 超高齢社会は加速度的に進んでいる。内閣府による『平成29年版高齢社会白書』11)によるとわが国の高齢化率は27.3%にまで増加しており,2065年には国民の4人に1人が75歳以上の後期高齢者になると推定されている。WHOが採用した障害調整生命年(disability-adjusted life year:DALY)は障害の程度や障害を有する期間を加味することによって調整した生存年数である。DALYの視標としての評価は検討の余地があるが,2009年に公表された資料21)によれば,2004年の本邦におけるDALYの疾患別割合は第1位がうつ病,2位が脳血管障害と報告されている。厚生労働省による患者調査ではうつ病などの気分障害を中心とする精神疾患の患者数は年々増加傾向にあり,4大疾患と言われたがん(悪性新生物),脳血管障害,虚血性心疾患,糖尿病の患者数を上回り,広く国民にかかわる疾患と考えられ,2013年度から新たに精神疾患を加えた5疾病5事業が開始されたことはよく知られるところである。

 厚生労働省の『平成28年国民生活基礎調査の概況』7)(http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/16.pdf)によると要介護者では認知症が24.8%と最も多く,脳血管疾患(脳卒中)が18.4%となっており,脳血管障害やその後に発症するうつ病や認知症に対する介入が急務である。2018年からは医療計画と介護計画の両者が一体となった地域包括ケアシステムの構築が本格化する。総合病院精神科における身体合併症医療は1990年代から検討が進み,実際に徐々に院内他科や精神科病院との協働は進んでいるように思われる。しかしながら身体疾患に伴う精神症状(特に不安や抑うつ)については,総合病院において急性期の治療を受けている間に新たに出現した場合,典型的な興奮を伴うせん妄よりも過小評価されがちで,精神科コンサルテーションリエゾンにも取り上げられることが少ないように思われる。そのため不安や抑うつといった身体疾患の予後にも影響を及ぼす重大な精神症状の客観的情報が欠落したまま,いつの間にかリハビリテーションあるいは療養目的のために転医してしまうケースが少なくない。

 本稿では脳卒中後に高頻度で出現するうつ病について,我々がこれまで取り組んできた協働の経緯とその成果,今後の課題について概説する。

心疾患領域との協働 和田 健
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はじめに

 急性心筋梗塞を含む冠動脈疾患やうっ血性心不全などの心疾患患者にはうつ病が合併しやすく,その予後にも影響することが近年知られるようになった17,19,23,25,34)。心疾患患者の予後やQOLを改善するために,合併したうつ病を適切に評価し,治療的介入を行っていく重要性が指摘されている14,36)。また逆にうつ病,双極性障害,統合失調症などの精神疾患患者は,心疾患に罹患しやすく,生命予後に影響するとの報告10,13,37)もみられる。したがって,精神疾患患者に合併した心疾患の管理,治療も患者の高齢化を背景に今後ますます重要な課題となることが予想される。このような臨床的課題を解決していくためには,精神科医と循環器内科医との連携・協働が必須であり,看護師や理学療法士,ソーシャルワーカーなど多職種を含めたチーム医療,集学的医療が,入院および在宅医療の場で提供されなければならない。

 本稿では,心疾患とうつ病をはじめとする精神疾患との臨床的関連性について文献的考察を行い,コンサルテーション・リエゾン精神医学の視点から,リエゾン精神科医がどのように循環器内科医やその他の多職種と協働し,患者の治療およびケアにおいて機能していくべきかを述べたい。

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精神科領域における糖尿病治療の重要性

 糖尿病は,統合失調症患者のおよそ13%26),大うつ病性障害患者のおよそ9%25)が併発するなど,精神疾患との併存率が高い,精神科治療の場においてもしばしば遭遇する疾患の1つである。糖尿病治療薬の使用によって抑うつ症状や認知機能の改善が認められるなど15),糖尿病の病態が精神症状にも影響を及ぼし得ることが明らかとなっている。このことから,糖尿病は精神科医療においても無視することのできない疾患であり,患者が糖尿病を併発している場合には,糖尿病の適切なマネジメントが求められる。

 ただし,糖尿病と精神疾患を併発する患者においては,精神症状が改善されるだけでは,必ずしも良好な血糖コントロールがもたらされるわけではない。抑うつを例にとると,薬物療法や精神療法によって糖尿病患者の抑うつが改善されたとしても,血糖コントロールの著明な改善には至らないこと4),また治療によって抑うつ症状と血糖の双方が改善されたとしても,それら2つの改善は相互に関連しないこと3)が示されている。すなわち,精神科医療の場において糖尿病のマネジメントを考える上では,「精神症状の改善を図ることで血糖コントロールが改善することを期待する」だけでは不十分であり,糖尿病に対する直接的な介入を行うことが求められる。

諸外国の身体合併症事情 岸 泰宏
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はじめに

 身体疾患治療現場での精神科有病率が高いことはよく知られている。健康人と比して,身体疾患罹患患者では,大うつ病は2〜3倍,パニック障害や身体化障害で10〜20倍,物質依存では3〜5倍の頻度で認められる。さらには,慢性身体疾患を抱えた症例の精神疾患の生涯有病率は40%を超え,物質依存・感情障害ならびに不安障害に罹患している危険が高い20)。本稿では,主に米国での身体疾患治療現場での現状をプライマリ・ケア,入院症例について述べる。その前に,米国では精神医療と身体医療の保険が異なるという点を認識しておく必要がある。

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はじめに

 一般病床でせん妄のため興奮して看護師に暴力をふるった患者に対して「こんな症例はうちでは診れません!」と他院へ転院させてしまった事例,うつ病の既往があるだけあるいは統合失調症の寛解状態なのに入院を拒否する事例など,コンサルテーション・リエゾン診療の充実した病院の精神科医には信じがたいことが実際にあるらしい。本稿ではこのような現実を踏まえて,身体合併症医療の望ましい方向性と人材育成について論じる。なお,身体合併症というとかつては精神科病院に長期入院中に発症する身体疾患を指していたが,高齢人口の増加に伴い,一般医療で日常的に精神症状が発症する時代において,その包含する状況は拡大している。どのような医療機関も無関心では済まされない課題である。

展望

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はじめに

 厚生労働省の文書を見ると,精神保健医療福祉と表現されることが多い。保健と医療と福祉を3つ並べて,精神科に関する専門領域全体を表しているわけである。わが国では,保健・医療・福祉とも,一定の活動の領域と専門職と財源とをもって相互に区別される領域となっている。保健は市町村や保健所の保健師や精神保健福祉相談員などが主に担当する相談や訪問業務などからなり,財源としては地方自治体の予算が主体である。医療は精神科病院や診療所などが行う治療であり,財源は診療報酬が中心である。福祉は障害者総合支援法で規定される障害福祉サービスが主体であり,相談支援専門員やその他の専門職が従事しており,それに対して固有の報酬体系がある。

 しかし,保健は英語のhealthの訳であり,本来は医療も福祉も含み込んだ広い概念である。前稿43,44)でも指摘したことであるが,英語ではcommunity mental healthという用語が,わが国では「地域精神保健医療福祉」という長い名前になる。このことは,わが国では保健・医療・福祉がそれぞれ縦割りの組織となっている事態と対応していると思われる。精神科医にとって,そもそも保健の領域は何をしているのか,たとえば「保健所がどのような活動をしているのか」はイメージをつかみにくいのが現状だろう。それは上記のような縦割りの制度の下で,保健と医療と福祉の接点が乏しいという実情を反映している。しかし,今後在宅医療の拡充が医療全体で大きな課題となり,精神科においても地域で精神障害者を支える方向に移行しつつある現在,支援が保健・医療・福祉に分断されている状況は重大な問題であると言える。

 本稿では,上記の問題意識を持ちつつ保健師を含めた精神保健活動について紹介したい。現在,保健医療福祉は「地域包括ケアシステム」という概念をキーワードとした再編成に向けて動いている。地域包括ケアシステムはこれまでは高齢者中心に検討され,精神障害は含まれていなかった。しかし,2017年度からは「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」という形で,精神科においても地域包括ケアシステムが主導的役割を果たすことが期待されることになった29,30)。この概念は言わば,分断した保健・医療・福祉を再統合して,community mental healthと一言で呼べるものを作るという意図を表したものとも言える。とはいえ,この概念を実質的なものにするには,医療も保健や福祉との相互交流を深めることが重要となる。本稿ではこのような目下の動きを念頭に置きつつ,精神保健の役割と,その中での保健師の役割を検討してみたい。なお,精神保健では,保健師以外にも,精神保健福祉相談員として精神保健福祉士が多数雇用されており,保健師と並び重要な役割を担っている。本稿では,与えられたテーマである保健師にひとまず焦点を絞ることとしたいが,そのことが精神保健福祉士など他の職種の役割を過小評価するものではないことをあらかじめ確認しておきたい。

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抄録 統合失調症の治療は薬物療法に限らず認知行動療法的アプローチなどを包括的に実施することが重要である。統合失調症に対する認知行動療法は思考内容の異常に対する研究や報告が多い。思路が解体し,滅裂思考を呈し病識も乏しい統合失調症患者では薬物療法の効果も乏しく,思考内容の異常の修正や変容を目標にして思考障害の改善を図ることはきわめて困難である。本論は,滅裂思考のために双方向性のコミュニケーションを図ることのできない統合失調症の患者に対して思考内容ではなく思考形式の障害に認知行動療法的に働きかけ,滅裂散乱した思路を収斂させること(「思路収斂法」)により思路を再構築し思考障害の改善を得た1例を報告するものである。

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抄録 統合失調症の発症や経過においてエストロゲンは保護的に作用し,閉経などによりエストロゲンが低下すると症状が増悪することがある。症例は53歳女性,統合失調症。27歳時に幻覚妄想状態で発症し,37歳時より加療開始されたが,44歳時に服薬通院を自己中断した。約9年間の無治療期間の後に緊張病性興奮を呈し,当科入院後に亜昏迷状態に陥った。Olanzapineを開始して一度亜昏迷を脱したものの,以後約1か月ごとに緊張病症状を呈し1週間程度で自然軽快することを繰り返した。ホルモン補充療法を開始したところ緊張病症状は消褪し,約半年後にホルモン補充療法を終了したが寛解を維持した。統合失調症の緊張病症状に対するホルモン補充療法の有効性について考察を交えて報告する。

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はじめに

 心因性非てんかん性発作(psychogenic non-epileptic seizure:PNES)は,「てんかん発作と似た症状を示すが,脳波所見やてんかんの根拠となるような臨床所見がなく,背景に心理学的要因が示唆される発作」と定義される14)。難治てんかんの20%程度を占め,てんかんとPNESの合併も30〜40%に及ぶ14)。頻回の救急受診は,医療システムだけでなく家族・ケア担当者の負担にもなるため,適切な診断と介入が望まれる9)

 一方で,PNESが疑われるほどに明確な心理的要因が,真のてんかん発作を直接的に誘発することもあり13),PNESの診断は長時間ビデオ脳波同時記録(long-term video EEG:LVEEG)がゴールドスタンダードである14)

 今回,LVEEGでPNESの診断がついたものの適切な説明が受けられず,離婚を契機に発作が増悪した軽度知的障害の1例を経験した。家族が撮影したiPadによる発作時動画を供覧して本人にも分かるように時間をかけて説明するとともに支持的精神療法を行うことで,動画供覧後よりPNESは著明に改善し抗てんかん薬を終了できたので報告する。

論文公募のお知らせ

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「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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目次

次号予告

編集後記
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 本号は「医療・医学の課題としての身体合併症」を特集しています。論文中にも書かれているように,身体合併症は,かつては精神科病院に長期入院中に発症する身体疾患のことを指し,主として精神科医療における課題でしたが,近年では,精神疾患の一般化に伴い,医療・医学全体の課題となっています。また,精神疾患と身体疾患とのかかわりは,従来考えられていたより広汎で多様であり,双方向性であることが明らかとなってきました。身体疾患が精神疾患のリスクを高めるとともに,精神疾患が各種の身体疾患のリスクを高めます。たとえば,統合失調症では,20年にも及ぶ衝撃的なmortality gap(平均余命の短縮)が存在し,心血管系疾患の罹患リスクが高いことが関与すると考えられており,その背景には薬物や生活習慣の影響だけでなく,共通の病因・病態による相互関連も示唆されています。「No health without mental health(Lancet, 2007)」とともに,「No mental health without physical health(Lancet, 2011)」が唱えられるところです。精神医療に従事する私たちは,身体疾患に適切に対処することだけでなく,それらを早期発見・予防することにも責を負うようになりました。

 精神科医師は身体疾患をよく分からず,身体科の医師は精神疾患をよく知らないという状況は,ある程度やむを得ないところですが,両者がうまく協働して診療に当たることが重要です。本特集ではそこに力点を置いた論文が集められ,各分野においてどのように協働できるかを具体的に示しています。初期臨床研修制度が開始されて10年以上が経過し,多くの若い医師が,短期間ながら精神科研修を含む臨床研修を経験して,各専門分野で活躍しています。昨今は,若い精神科医は身体疾患にさほど臆することなく対処し,また身体科の医師は精神症状のある患者を忌避することなく診療するようになりつつあると感じます。協働の素地は整いつつあり,これは初期臨床研修の大きな成果と言えるのではないかと思います。

基本情報

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精神医学
60巻6号 (2018年6月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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