臨床眼科 50巻8号 (1996年8月)

連載 今月の話題

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 サリンガス事件は日本中が驚愕した。最近では,第50回日本臨床眼科学会で「災害眼科」のセッションが設けられて,多くのサリンガス中毒患者を病院で診察された経験が討議され,眼科医の関心を呼んだことは,記憶に新しい。本誌も,聖路加国際病院眼科・山口先生に上記のテーマでご寄稿をお願いしたところ,快くお引き受けいただいた。

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緒言

 アルポート症候群はIV型コラーゲンの異常により基底膜生成の障害をきたす遺伝性疾患である1〜5)。臨床的には進行性糸球体腎炎,神経性難聴,眼症状などが特徴的である。眼症状では前部円錐水晶体と,後極部を中心とした網膜の白斑がよく知られている1〜5)が,血管の脆弱性に基づく網膜の変化についての報告はこれまでになく,特に本邦における症例報告は筆者の知る限りなかった。今回筆者らは,初期には激しい網膜前出血と網膜浮腫をきたし,5年後に著しい網膜色素上皮の萎縮を示した症例を経験した。本症では基底膜異常が背景に存在するため,血管内皮細胞,ブルッフ膜,網膜色素上皮細胞などが脆弱となり,透過性亢進や菲薄化,変性を生じることに加え,腎炎の進行に基づく腎性高血圧および腎不全(透析)の影響で修飾された病像を呈したものと考えた。

連載 眼の組織・病理アトラス・118

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 エキシマレーザーの眼科手術への応用は1983年にTrokelらによって始められ,おもに角膜疾患,屈折矯正手術に利用されている。フッ化アルゴンガスによる193nmの波長のエキシマレーザーは,6.4eV (電子ボルトelectron volt)のエネルギーを持ち,この値は分子間結合力の3.5eVを上回るので,分子レベルでの組織破壊が可能となる。隣接組織に熱凝固作用を及ぼさずに組織を切開,切除できる(図1)。細密でしかも正確な切開が要求される手術には極めて有用な機器で,切除縁は極めてシャープである(図2)。

 エキシマレーザーによる角膜手術はレーザーの反復照射で角膜を形成する。形成する方法には,照射光学系の円形の絞りの大きさを順次変えながら目的の形に仕上げていく方法と,スリット状の光をスキャンして目的の形を作り上げる方式がある。エキシマレーザーによる手術方法には,PTK(phototherapeutic keratectomy),PRK (photo—refractive keratectomy),PAK (photoastig—matic keratectomy),T-excision (T切開),Lasik (Laser in situ keratomileusis)がある。PTKは角膜を均一の厚さで切除する。PRKは,角膜表面が目的とする球面を持つように切除(ablation)する。PAKは乱膜を矯正する。T切開は細い溝状の切除によって,いわゆるT切開術と同じ効果をねらって角膜乱視を矯正する。Lasikはケラトームで角膜半層弁を作製後,角膜実質内にエキシマレーザーを照射する手術である。Lasikは従来のPRKに比較して,以下の利点をもつ。術後の疼痛が少ない。角膜実質の術後の混濁が少ない。術後のステロイドなどの点眼が不要である。ボーマン膜を温存できる。-2.00Dから-30.00Dの範囲の近視の矯正に用いられる。乱視や遠視にも応用できる。

連載 眼科手術のテクニック・92

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涙道内シリコンチューブ留置術の考え方

 先天性の涙道閉塞症は,自然緩解することもあり,またブジーが功を奏することもある。また,後天性の涙小管系の閉塞症も稀にブジーで緩解することがある。しかしながら,不幸にして症状が継続する場合には,手術的に細いシリコンチューブを留置する術式の適応となる。

 近年,涙道内チューブ留置術として,硬性のゾンデを装着したチューブを,非直視下に挿入する術式が広く用いられている。しかしながら,この手術を受けたあとに,症状が継続するために来院した症例を数例経験している。これらの症例を調べると,鼻涙管粘膜と骨の間にチューブが挿入されているか,あるいはチューブが涙嚢壁を穿通しているような,不幸な状態を呈している。涙道の粘膜は通常でも脆弱であるが,炎症などによりこの傾向は強まるためにこのような事態が発生するものと考えられる。

連載 新しい抗菌薬の上手な使い方・4

3.カルバペネム系薬 大石 正夫
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1)イミペネム/シラスタチンナトリウム

 imipenem/cilastatin sodium (IPM/CS),商品名:チエナム

 眼科適応:角膜潰瘍,全眼球炎

今月の表紙

糖尿病網膜症 清水 弘一
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 当時47歳男子の右眼の螢光眼底造影所見。18年前から糖尿病があり,内科で加療中である。左眼に硝子体出血が生じて眼科を受診した。視力は右1.2,左0.5であった。この螢光所見は初診時のものである。乳頭とその近くに新生血管が多発し,さらに,眼底の中間周辺部に広範な血管閉塞領域ができている。ただちに汎網膜光凝固を施行したが,のち,両眼とも硝子体出血が強くなり,左右眼それぞれに硝子体手術と白内障手術とを行った。初診から8年後の現在,左右眼とも1.0の視力を維持している。「運」の要素もあろうが,適切な治療を行えば,増殖網膜症であっても視機能の予後が必ずしも悪くないことを示す典型例である。

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 植皮による義眼床作成後,移植皮膚片の拘縮予防のため,熱可塑性プラスチックを利用した装具を使用し,良好な結果を得た。本装具は作成が容易で微調整も可能なため,装具の脱出や皮膚潰瘍などの合併症なしに,再建した眼窩の形態に良好に適合する。本装具の使用により,瘢痕拘縮による眼窩容積の狭小化,上眼瞼陥凹や上・下眼瞼の内反などの義眼床作成後の合併症の予防に有効と思われた。また手術後管理の重要性につき再認識した。

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 脈絡膜新生血管を伴った加齢性黄斑変性症患者64症例64眼において,初診時の螢光眼底撮影をもとに,レーザー治療の適応を満たす症例の割合について調査した。その結果,Macular Photocoagula—tion Study Groupのレーザー治療の適応を満たす症例は64眼中21眼,全体の33%に過ぎなかった。脈絡膜新生血管を伴った加齢性黄斑変性症に対しレーザー光凝固が唯一の有効な治療法であることを考えると,今後さらにその適応を検討する必要があると考えられた。

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 経時的に,中心30度内視野障害程度の指標であるmean deviation (Humphrey30-2 statpac,以下MD)が有意に低下した正常眼圧緑内障(NTG)21例21眼(術前眼圧16.0±2.1mmHg,術直前MD—11.8±8.7dB)に対して線維芽細胞増殖阻害剤を併用した線維柱帯切除術を行い,術後視野障害進行をprospectiveに検討した。術後平均24か月(最低12か月)の経過観察において,最近3回の平均眼圧は9.2±3.2mmHgであった(p<0.01)。また,術前におけるMDの経時的変化が−1.48±1.0dB/yearに対して術後+0.13±1.27dB/yearと上昇し(p<0.01),この結果,MDが経時的に有意に低下するNTGにおいて,線維柱帯切除術は,MD悪化防止に有用であることが示唆された。

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 1987年から1993年の7年間に診療した出生体重1,500g未満の未熟児網膜症自験例233名466眼の成績を報告した。発症率は55.4%,治療率は19.1%,重症瘢痕形成率は0.2%であった。出生体重別に1,000g未満,1,000g以上1,250g未満,1,250g以上に,また,出生在胎週数別に28週未満,28週以上30週未満,30週以上32週未満,32週以上に分け検討した。発症率は出生体重および在胎週数の増加に比し有意に低下した。要治療率は出生体重・在胎週数の増加に比し低下する傾向を示した。治療は点眼麻酔の細隙灯顕微鏡下側臥位光凝固術によった。本法は全身的負担が少なく,全身状態による手術不能の例はなく,これが高い治療率と良好な治療成績の主因と思われた。

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 原発性免疫不全症患者の涙丘部に発生した稀なT細胞性悪性リンパ腫の1例を経験した。症例は5歳男児で,左内眼角部の腫脹が急激に増大し,原因不明の発熱と腹痛のため入院した。頭部MRIで左眼球鼻側部に腫瘍陰影を認めた。生検により病理学的に特異なリンパ腫であるangiocentric lymphomaで,LSG分類の大細胞型に属し,免疫組織化学的に腫瘍細胞はOPD−4が陽性でT細胞性リンパ腫と診断された。臨床病期分類では病理診断確定時stage 3であり,化学療法のみを行った。しかし腫瘍の増大は速く,入院後5か月で不幸な転帰をとった。免疫不全症患者では悪性リンパ腫を含めた悪性疾患の合併を念頭におき診察する必要がある。

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 視運動性眼反射を介した他覚的立体視検査法の有効性を検証するために,コンピュータで作成した,ランダムドットステレオグラム(RDS)で構成された水平移動する立体ストライプを正常被検者5名に提示し,眼球運動の応答について検討した。両眼視した場合に限り,急速相と緩徐相からなる明瞭な視運動性眼振がみられた。この眼振の発生頻度は,ストライプの移動速度が2.8〜5.6°/秒で最も高くかつ安定していた。RDSの視差が80〜670秒の範囲では,眼振の振幅,頻度に有意な差はなかった。この方法は,検査上の偽陽性を効果的に排除でき,臨床応用する上での頑健性も備えていると思われた。

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 生後2か月の男児。眼球運動の異常を主訴に受診し,画像診断と眼底所見から両側性眼窩嚢腫を伴う視神経コロボーマと診断された。眼球はやや小さく,眼底には両眼視神経コロボーマと右眼網膜剥離とを認めた。MRIで嚢腫は両側眼窩後部の筋円錐内にあり,その境界は明瞭で内部は分葉状を呈し,内腔が硝子体とほぼ等信号の腫瘤陰影がみられた。この嚢腫は視神経入口部付近で眼球と密着していた。この患児の二卵性双胎の第一子の眼底には両側性脈絡膜コロボーマがみられた。以上からこれらの異常は,胎生裂の閉鎖不全によるもので家族性の要因も疑われた。

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 大量の網膜色素上皮下出血に続発したと考えられる大型の網膜色素上皮裂孔の2例を経験した。併発した網膜下出血に対し,血腫除去術を行い良好な視力を得た。2例とも,併発した大量の網膜下出血のため術前に色素上皮裂孔を確定することは困難であったが,検眼鏡的所見から色素上皮破孔を疑った。発症機序としては,通常の色素上皮剥離に伴うものではなく,脈絡膜新生血管からの出血が色素上皮下で増加し網膜色素上皮に亀裂を生じたと推測された。大量の網膜下出血では,色素上皮裂孔の存在を疑い,特に血腫除去術を行う際には剥離している網膜色素上皮を誤吸引しないよう注意すべきであると思われた。

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 アカントアメーバ角膜炎の1例を経験した。非含水性ソフトコンタクトレンズを装用している24歳の女性で,主訴は流涙,異物感,充血であった。初診時は角膜に偽樹枝状の上皮びらんがあり,抗ウイルス剤を投与した。病状は一進一退を繰り返し,初診より17日目に白色潰瘍状となり,視力は矯正0.04となった。アカントアメーバによる角膜炎を疑い,病変部の擦過鏡検でアカントアメーバのcyst,栄養型を認めた。コンタクトレンズ保存液からもアメーバが分離培養された。翌日より0.1%フルコナゾールの点眼と静注を開始し,白色混濁は著明に軽減し,3週後に視力は0.5に回復した。

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 急激な視力低下を主訴とし,著明な視神経乳頭浮腫を伴った片眼性の小児ぶどう膜炎を経験した。10歳女児で左眼視力低下,発熱を主訴に来院した。視力は右1.2(n.c.),左0.02(n.c.),眼圧は左右とも16mmHg,右眼には異常なく,左眼には前房および硝子体内に炎症細胞が浮遊し,眼底には乳頭上方の強い滲出性変化と,肉芽腫様病変を伴った特徴あるぶどう膜炎であった。視神経炎症状を呈しているため,ステロイド大量療法を開始したところ,乳頭上方の肉芽腫様腫瘤が明瞭となった。全身検査所見では特に異常なく,Shieldsの分類によるトキソカラ症のoptic papillitis型と推定した。ジエチルカルバマジンを併用したステロイド大量療法にて左視力1.0まで回復し,肉芽腫様病変は退縮した。本症例は著明な視神経乳頭浮腫を伴った肉芽腫性病変を有するぶどう膜炎で,今回の治療法は極めて有効であった。

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 球後麻酔時の痛みを緩和する目的で,穿刺部位の皮膚にリドカインテープを使用し,その疼痛緩和の程度を調べた。対象は全身合併症のない白内障手術患者40例とした。方法は,20例の患者に対し60%リドカインテープを貼付後,球後麻酔を行った。一方,対照として他の20例はリドカイン無添加テープを貼付し,球後麻酔を行った。その際,疼痛レベル(痛くない,少し痛い,痛い,非常に痛い)を問診し記録した。その結果,60%リドカインテープを使用した患者では,痛くない,少し痛いと答えた者が75%であったのに対し,リドカイン無添加テープ使用例では30%であり,両群間には有意差がみられた。60%リドカインテープは球後麻酔における皮膚穿刺時の疼痛緩和効果があると考えられた。

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 汎網膜光凝固の適応であると判断された糖尿病網膜症14眼に対し,眼底の1象限に光凝固を実施する前,直後,3日後,7日後に,毛様体と前部脈絡膜の状態を超音波生体顕微鏡(ultrasound biomicro—scope:UBM)を使って検索した。光凝固にはアルゴン緑または色素レーザーを用い,208から331個の凝固斑を置いた。光凝固前と直後には毛様体と前部脈絡膜に異常所見はなかった。光凝固の3日後の検索で,12眼86%に,毛様体扁平部とこれに隣接する前部脈絡膜に剥離があることが同定された。剥離の高さは強膜厚の15%から100%の範囲にあった。剥離の範囲は毛様体の全周にあり,光凝固を行った部位との相関はなかった。4眼で毛様体ひだ部下に剥離がおよび,この部が前内方に偏位していた。UBMの画像上で5眼に狭隅角化があった。光凝固7日後の検索では,剥離は消失していた。通常の臨床的検索では,これら剥離に関係する異常所見は観察されず,自覚的にも特に問題はなかった。以上の所見は,汎網膜光凝固を4回に分けて実施するとき,第1回目の1象限のみに光凝固を治療量で行ったとき,その3日後に一過性の毛様体脈絡膜の剥離が高頻度で発症したことを示している。

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 眼トキソプラズマ症は,先天感染の再活性化によって発生するとされ,後天感染による症例は本邦では稀である。やや非特異的な後天性眼トキソプラズマ症を42,51,54歳の女性に経験した。1例はトキソプラズマ性のぶどう膜炎と診断され,他医で加療中であった。右眼に強い硝子体混濁と網膜前に増殖膜があった。前房水のトキソプラズマに対する抗体率は33であった。アセチルスピラマイシンの投与後に硝子体手術を行い,視力が改善した。他の2例には眼底後極部の網膜深層に黄白色の複数の病巣があり,硝子体混濁はほとんどなかった。うち1例では血清トキソプラズマ抗体価が上昇していた。2例ともにインドシアニングリーン螢光眼底造影で,造影初期から後期まで低螢光を呈した。2例ともアセチルスピラマイシンの全身投与で病巣が瘢痕治癒した。

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 強膜内陥術を行った裂孔原性網膜剥離眼33眼に対して,術前と術後の毛様体の超音波断層像を超音波生体顕微鏡(UBM)を用いて観察した。術式は,強膜輪状締結術32眼,子午線方向の内陥術1眼であった。術前に2眼に軽度の毛様体扁平部の剥離があった。術後9日後の検索では22眼67%に毛様体剥離が発症しており,うち13眼では毛様体ひだ部まで剥離が及んでいた。これら剥離は,特別な治療なしに術後2か月までに徐々に消失した。毛様体剥離発症に関係すると考えられた因子は,バックルの円周方向の範囲,バックルの材質,大きい裂孔であった。術後の浅前房は12眼にあり,毛様体剥離がその原因にあると考えられた。検眼鏡で同定できた脈絡膜剥離3眼では,毛様体剥離は全周に起こっていた。強膜内陥術後の毛様体剥離は,ほとんどの場合に無症候性であるが,高頻度に発症しているので,注意が喚起される。

眼科の控室

第三者
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 患者が医師を告訴するご時世になってきました。残念なことですが,これでもまだアメリカよりはマシなようです。

 アメリカで深夜テレビを見ていると,コマーシャルが入って,「いまの医師に不満があればこれこれの電話でご相談を」とアナウンスがあります。もちろん医療関係を専門にしている法律事務所の広告です。日本ではまだそこまでいっていませんが,経済の面だけでなく,時間や気分の点でも,できれば告訴はあって欲しくありません。

基本情報

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臨床眼科
50巻8号 (1996年8月)
電子版ISSN:1882-1308 印刷版ISSN:0370-5579 医学書院

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