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はじめに
疾病を「治癒」する時代から「予防」「癒し」の時代、そして人生100年時代に突入する今、さまざまな場や対象の健康寿命延伸につながる、実践力のある看護師を育成することが看護基礎教育には求められている。池西は1)、「人々が理想を見失うことなく生き抜くために、生涯現役に近づける健康寿命の延伸をめざすために、看護職の役割は大きい。その役割を担える次代の看護職の養成を行うことが、これからの看護基礎教育にかかわる教員の使命である」と述べている。このことは、看護の対象がその人らしく、その人ならではの楽しみや生きがいを感じながら生活を送ってもらううえで、看護の役割の大きさを私たちに伝えている。
ICT化の発展、感染対策の徹底などから、人と人とのダイレクトなかかわりに希薄さを覚える昨今だからこそ、「手を用いたケアの有用性」を理解し、学生に対してもそれが実践できる看護師になってほしいと筆者は感じている。川島2)は、「『療養上の世話』はそのプロセスも結果も、患者を気持ち悪がらせたり、痛がらせたり、怖がらせたりさせてはならない。何をおいても気持ちよいケアであることに尽きる」と、直接手で触れて行うケア「TE-ARTE」(て・あーて)の価値について述べている。
今は、対象者へのまなざしを広くもち、従来の形にとらわれない「その人らしい生活」を支援することが求められる時代であり、そこには美容や癒しも含まれると筆者は考える。さらにそれは、看護者自身が「安楽」や「癒し」を体験することをとおして、自分自身が大切にされているという感覚を覚えることから対象者への気持ちの共感が得られる。
これまで筆者は、臨地実習指導のなかで「学生は安楽が対象に与える影響の理解や技術力が不足している」と感じてきた。また、終末期における緩和ケアでは「安楽」や「癒し」の援助が積極的に行われるが、それらの援助を必要とするのは終末期の患者だけではない。
これらのことからカリキュラム改訂に合わせ、筆者や他教員が課題に感じているこれらの内容を学内で共有・検討し、専門分野Ⅰの基礎看護学において「安楽と癒しのケア」の科目を新設した。本稿では、その講義の実際と成果について報告する。
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