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ティネル徴候は世界中の整形外科医,神経内科医,神経外科医,理学療法士,作業療法士に大変広く知られており,損傷された神経の軸索再生をtingling(チクチクする痛み,またはビリビリ感)またはpins and needle(ビリビリ感)感覚により,その局在を明らかにすることができる有効な徴候である.この検査では,傷害または圧迫された神経を打診した直後に局所的なビリビリ感が生じる場合にのみ陽性と判断され,持続的にビリビリ感が存在する場合などには判定に注意を要する.一般にドイツ語圏では,ドイツ人の生理学者Paul Hoffmannとフランス人の神経外科医であるJules Tinelが第一次世界大戦中の同時期(Hoffmannが1915年3月,Tinelが1915年10月)に同様の観察を報告したことから,ホフマン・ティネル徴候と呼ばれている.ただし,神経学の領域で,TinelのほうがHoffmannよりも有名で認知されていたという説や,1972年にTinelの論文がEmanuel Kaplanにより英訳され広く認識されたという理由により,英語圏ではティネル徴候という呼称が一般的なようである.Hoffmannは,1961年にZurich大学およびBerlin大学のそれぞれより名誉博士の称号を授与され,“ドイツの現代神経生理学の創始者”として知られており,特に筋の活動電位と電気生理学的反射の研究を行い,H反射を明らかにしたことで有名である.
ティネル徴候の原理は,末梢神経の知覚線維が再生するときに,軸索再生が髄鞘再生に先行することから,再生部では無髄の部分が形成されて再生神経が伸びる.この部分は機械的刺激に特に敏感で,軽い打診により知覚神経支配領域に放散痛を再現できることによる.打診が強過ぎる場合や広い部分を打診している場合には,この検査の精度が低下する可能性がある.このティネル徴候により,回復過程にある末梢神経の再生部位を明らかにするとともにその予後が良好なことと,神経が正しい筋に到達できないことによる過誤神経支配の可能性などを明らかにする場合がある.またティネル徴候が長期に陰性の場合は,圧迫や傷害などにより機能低下を生じた末梢神経の機能再生の可能性が低く,予後が不良であることを示している.
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