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私たちが手足を動かしたり口を動かしたり,あるいは歩いたり走ったりという運動をするのに主役を演ずるのが,神経・筋系と共同した骨・関節です.筋の働きは骨というテコが,関節という支点のまわりで回ることによって初めて,生体の存在の表現といわれる外部環境への働きかけ-つまり個体からみれば運動-という姿をとることになります.骨・関節はまた,バックボーンということばどおり私たちの全身を支持することや,私たちの体内諸器官を外部から保護する働きを持っています.これらの働きは骨の強固さと弾力性,関節のなめらかさと安定性が基礎にあってこそ完全な機能を現せます.一方,体内環境にあっては骨格は,その無機成分である骨塩(リン酸やCaを主成分とするアパタイトと呼ばれる微細結晶と考えられている)が,体液の電解質,特にCa,PO4,Na+,Mg2+のホメオスタシスに重要な働きをしていること,また骨髄では血液固形成分,つまり血球の産生が行われ,この面でも骨格が内部環境の維持に関与していることが知られています.
したがって,骨・関節の病気は,こういった運動という機械学的な面での考慮と,内部環境での代謝,物質出納という面での考察を常に要求することになります.もちろん,ある病気では前者が大きく前景に立つし,ある障害では後者が重要な症状として取り上げられますが,この二面を忘れてはなりません.機械学的な障害は,たとえば外傷で骨折,脱臼,捻挫といったものがすぐ思い浮かびます.足関節を捻挫して,痛みのためそこをかばって歩くうちに膝や腰,または反対の下肢,ときには肩こりまで起こったという経験をした方もあるでしょう.このように私たちの骨・関節は全体として一連の鎖のような関係を持ち,全体がじょうずに調節されたチームワークを保っているので,一部の障害が他の部分に障害を起こすこと,逆に全身の病気が,どこか一部の骨・関節の機能障害を引き起こすことが普通にみられます.代謝という面からは,骨・関節に全く関係ないような肝臓や膵臓の病気が骨・関節に姿を現すことがありますし,骨塩の代謝に関係する内分泌腺の異常は当然,骨・関節に病気を起こしてきます.
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