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はじめに
Gunderson8)は,境界例研究を方向づけた3つの重要な研究の1つとして,Ketyら10)の養子研究をあげた。デンマーク養子研究と呼ばれるこの研究は,養育上の家族よりも,生物学的家族において,精神分裂病に関連する障害が多く認められると結論づけた。そこで見いだされた境界分裂病(borderline schizophrenia)に関する研究は,「境界例の定義を明確にすることによってのみ精神分裂病の遺伝様式が解明されること」を示したという意味で「衝撃的」であり,また,性格病理に対応する遺伝的基盤への着目を促したという意味では「生物学的精神医学の興隆の道標」であるとさえ,Gundersonは述べたのである。
Ketyらの一連の研究は,1960年代以降の米国におけるサイエンス至上主義注1)にとって,確かに衝撃的な役割を演じたであろう。境界分裂病に関する,その後の研究の展開は,1950年代におけるRado16)の「スキゾタイプ」(schizotype)という概念を復活させ,分裂病型人格障害(schizotypal personality disorder)という概念を生み出した9,19)。そして,分裂病型人格障害が精神分裂病と遺伝的に関連を持つことを証明するための努力を,次々と重ねていった1,2)。反面,分裂病型人格障害は境界例(DSM-III以降は境界性人格障害)とは関連を持たず,また,境界例は精神分裂病と関係しないという研究も積み重ねられていった9,23)。その結果,Gundersonは,境界例(境界性人格障害)の範疇から境界分裂病(分裂病型人格障害)の概念を分離することが有益であると,主張するに至ったのである。
はたして,分裂病型人格障害は,いまや精神分裂病の周縁に位置づけられる遺伝学的概念としてのみ,存在を認められているということになるのだろうか。換言するなら,分裂病型人格障害は,境界例としての意義を失ったといえるのだろうか。ここでいう境界例とは,固定した人格を指すものではなく,病像もしくは状態像としてのそれを意味する19)。換言するなら,本稿の目的は,固定した人格障害としての分裂病型人格障害という視点に疑問を差し挟み,人格と,病像もしくは状態像とを区別する中から,分裂病型人格障害の概念を再構成しようとするところにある。
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