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はじめに
最近のように電子計算機の時代になると,単に従来の心電図やベクトル心電図をそのまま記録して解釈するということにとどまらず,より本質的なものを理論的に考えて,得られたものを直視的に表わしたならば,さらに多くのことがわかるのではないかと考えられてきた。心臓起電力は元来三次元的な現象であるにもかかわらず,心電図の各誘導は人工的に,ある一次元上に反映された一要素をとっているにすぎず,ベクトル心電図も人工的にその一断面をとっているにすぎないと考えれば,心起電力をもっと別の角度から把握することもできるはずであり,そうすることによりいっそう本質的な,診断に有利なパラメーターが得られる可能性もある。
このようなことは従来まったく考えられなかったというわけではない。しかし理論にしたがって数式で表わしてみると,比較的簡単なものですら,いちいち計算してだすことは煩雑で手に負えぬものであり,とても臨床的に各病態で検討してみるということのできるものではなく,実地に役立たたない机上の空論として臨床上には顧みられなかったといってよかろう。
電子計算機はこれらの事情を一変した。もし本当に有用なことがわかれば,心電図やベクトル心電図を記録すると同時に,これにより,複雑な数式より得られるものを,たちまち自動的に計算して,曲線としてみせるようにすることができる。器械をそのように作りさえすれば,心電図やベクトル心電図と同じ位の手間で,臨床的に各症例から新しい曲線が得られ,これを検討することにより,診断に従来より有用なものを見出すことがありうるわけである。
これは単に従来のものをいじくりまわしているうちに,ひょっとしたらよいものが出るかもしれないという種類のものではない。理論的に考えると本質的なものはまだまだ多数あるはずで,この新しい時代ではもっと広範囲にこのような試みがなされなければならない。
このような試みをしている研究家が最近海外でぽつぽつでてきたわけであるが,今までの研究家は心電図またはベクトル心電図の自動診断という観点から,これを研究しているようである。なるほど心電図またはベクトル心電図の研究の新しい傾向のものは多く自動診断に向かっており,またいっそう本質的なものが見出されれば,これを自動診断の具として,とり入れることが得策であるから,密接な関係があるけれども,決して自動診断のためばかりというわけではない。自動診断の目標をどこにおくかはいろいろであるので,一概にはいえないが,現在心電図が診断されている程度を自動的にやらせるだけなら,必ずしも新しいパラメーターを開発する必要はないかもしれないからである。
このような試みの中で,心電図またはベクトル心電図から比較的簡単な計算で出せるものとして,心起電力の三次元的な各瞬間の大きさやその空間における方向があり,瞬間的な起電力の変化の仕方や加速度がある。たとえば,AbildskovやSayersら1)2)は,瞬時空間ベクトルの大きさを各時点で示し,時間因子を補うとともに,この波形をベクトル心電図診断の情報ともしようと試みた。すなわち,直交座標3軸成分x,y,zより√x2+y2+z2を時間に対して求めるもので,彼らはこれが心筋硬塞と正常とで異なる波形を示したとし,心起電力の変化を平面的に,時間に関係して変換する新しい方法であるとして発表した。その後Yano and Pipberg—er3),森11)12)らがこれをとりあげている。ところが先にあげたいろいろの心起電力の要素のうち,このような大きさや方向については,今まで三次元的に直接把えられていたわけではないが,ベクトル心電図の経験から,その有用性に対してはかなりの評価がえられている。しかし速度となるともはやそれほど明らかではないので,最も検討してみる価値あるものと考える。このような観点から,われわれはこの数年間後述する空間速度心電図をとりあげて研究してきた4)。速度の表わし方も角速度とか,面積速度とかいろいろあるが,一応線速度のものをとりあげて,これに焦点をあてて論じてみることにする。加速度的要素も興味はあるが,それは速度的要素が臨床的に有利な点が解明されてから,初めて検討してもよいのではないかと考え,本稿ではふれないことにする。
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